株式会社フジテレビジョン

ブロードバンド革命 −追いつめられたフジテレビ


図表1 フジテレビの会社概要
 株式会社フジテレビジョン(以下フジ)の日枝社長は2000年の年頭の挨拶で(図表1)、
「今年はCS放送にBSデジタル放送を加えた三波を複合的に運用する「メディア・コンプレックス」に変身する記念の年。コンテンツ制作や投資、提携など総合的な経営戦略をスピーディーに実行していきたい」(日経産業新聞 2000年1月5日)
とBS、地上放送のデジタル化、それによる放送と通信の融合(以下「融合」)において抱負を語った(図表2)。インターネットによる通信が普及するなかで、フジはどのようなビジネスモデルを描いているのか、この競争に勝ち残るために何が課題となるのか考えてみたい。
図表2 テレビのデジタル化

1.地上波の危機

 日枝社長は
「インターネットは最大の脅威になりつつある」(日本経済新聞 2000年4月25日)
と語っているように、規制に守られていた放送業界は危機に直面している。

(1) インターネット放送

 インターネットでこれまで放送でしか流せなかった動画をスムーズに流す環境が整い始めている。郵政省の「第1回 通信・放送融合時代の情報通信政策の在り方に関する懇談会」(2000年7月19日開催)では、2002年に、テレビ放送並の画質の「インターネット放送」が登場し、2005年にはネットワーク上での映画等の多様な大容量コンテンツ流通が普及すると捉えている。
 インターネット放送を実現する環境整備は大きくみっつのポイントがあげられる。
 ひとつは、パソコンの標準的なCPUのクロック数の向上である。デスクトップ型では1995年におよそ133MHzだったものが、1GHzのCPUを搭載したGateway SELECT1000のように1GHzまで向上している。ノート型も1995年の120MHzから現在では750MHzに向上している。現在でも通常のテレビ並の映像はパソコンで十分再生が可能である。
 ふたつめは、ストリーミング技術(音声・映像コンテンツを受信しながらリアルタイムで再生可能な技術)の登場である。Real playerなどのストリーミング技術を用いた主な再生用ソフトも増え、現在Real playerの国内登録は750万人以上である。ストリーミング技術を活用したコンテンツも登場している。例えば、日本テレビの「NEWS ON DEMAND」やTBSの「NEWS i」などがあげられる。
 最後は高速大容量化である。NTTと松下電器産業が共同して、12月4月から金沢で実証実験を加入者宅まで光ファイバーを敷設し、高速・大容量伝送を可能にするFTTH(Fiber to the Home)がある。また、メタリックケーブルと光ファイバーの複合型であるPDS(Passive Double Star)方式の導入・実証実験が進められている。
 一方で、光ファーバーへの過渡的な措置として、既存のメタリックケーブルに変復調方式を用いて、高速デジタル回線を提供するxDSL(x Digital Subscriber Line)、なかでもADSLが本格化されている。ASDLは1.5〜9Mbpsの伝送速度を可能にする。
 郵政省はインターネットの高速化を早期に実現するために、7月3日の「高速デジタルアクセス技術に関する研究会報告書」の答申で、NTTにADSLサービスの全国展開を要請している。4月には、電気通信事業者がADSLの技術を用いたインターネット接続サービスを行う際の資金として、政府系金融機関の低利融資制度が実施されている。
 携帯電話では、「IMT−2000」の技術を使い、2Mbps速度が可能となっている。NTTドコモは来年5月に東京や神奈川でこのサービスを開始する予定である。

(2) インターネット利用者のテレビ視聴時間の短さ

 読売新聞が発表した調査結果で、インターネットを活用し始めてからテレビ視聴時間の変化に関する質問に対して、50%が「減った」としている(956サンプル、調査期間2000年4月13日〜18日)。新聞を読む時間については13%が「減った」としている。インターネットでテレビの視聴時間が短くなっている。
 アメリカでも同様の結果が見られる。Nielsen Media Researchが98年にインターネットに接続されている家庭5000世帯でテレビ視聴時間について調査した。その結果インターネットに接続されている家庭での視聴時間はそうでない家庭よりも1日1時間以上少ないことが確認できた。
 インターネットでの高速大容量化が進み、インターネットの好環境が実現すればテレビの視聴時間がより短くなっていくと考えられる。

(3) CATVの浸透

 CATVの普及世帯数が増加している。1999年度にCATVの加入世帯数は949万世帯に達し、5年前と比べ2.6倍に増加している。CATV網を利用したインターネット接続サービスの利用者も増加しており、2000年3月末現在で、21.6万人、対前年同期比6.8倍になっている。
 普及が進むCATV業界は数多くの中小企業が中心であるが、そのなかで大きな動きが起きている。多数のCATV会社を傘下に抱えるCATV統括会社1位のジュピターテレコム(以下J−COM)と2位のタイタス・コミュニケーションが7月に合併した。存続会社はJ−COMで、これにより資本金760億円、傘下CATV数28局、テレビ放送サービス加入世帯67万、CATVインターネット・サービス加入4万7000世帯を抱える日本最大のCATV統括会社が誕生した。住友商事、マイクロソフト、伊藤忠商事が出資している。
 合併の狙いを伊藤忠商事宇宙・情報・マルテイメディアカンパニー・プレジデント横田昭常務は「放送としてみると、CATVは効率の良い事業ではない。」とし、CATVのケーブルや光ファイバーといったインフラを活用したインターネット・サービスを強化することであるとしている(日経ネットビジネス2000年6月号)。テレビ番組の配信だけでは、1世帯あたり基本料金で月2000〜4000円程度しか徴収できないが、インターネット・サービスも行えば、さらに月4000〜6000徴収でき、収益性が大きく改善される。
 CATVはインターネット・サービスにシフトしながら、着実に加入者数を増やし、浸透をしはじめている。

2.デジタルTVのインパクト

図表3 デジタルテレビの普及台数予測
 インターネットの脅威が放送業界に迫りつつある一方で、放送も今年12月のBS放送のデジタル化、2003年の大都市圏での地上波のデジタル化が進められて、大きな期待を寄せられている。
 デジタルテレビの普及台数は2010年に6338万台となり、日本全世帯のテレビが買い変わることになる(図表3)。デジタル放送関連の市場規模はハードだけで25兆円に達すると予測されている。
 デジタルTVにはデータ放送受信機能が標準的に装備され、1.5〜2Mbps程度の速度が確保されると見込まれている。こうしたなかで、デジタルTVがインターネットの「下り回線」の役割を果たす可能性を秘めている。
 デジタルTVが普及し、これがインターネットの窓口的な媒体として機能する可能性が見込まれている。デジタルTVをプラットフォームとして放送と通信が統合され、家庭内の情報家電がネットワーク化されていくと考えられている。

3.フジの通信と放送の融合−フジのビジネス構想

 通信の環境整備とデジタル放送への期待が高まるなかで、郵政省が考えている放送と通信の融合とは異なる考え方をフジでは持っている。郵政省が言う「融合」は
「放送と通信のふたつの提供するサービスが曖昧、不明確になることと現在認識している。例えば、一つのコンテンツを放送にも通信にも送信ができることである」(JMRヒアリングより)、
つまり「不明確、曖昧」と考えている。一方、フジが考える「融合」はテレビとインターネットなどを柔軟に活用するもの、「双方向性と複合」である。

(1) メディア・コンプレックス戦略

 フジは「融合」に向けて、メディア・コンプレックス戦略を掲げている。1社3波体制やインターネットへの進出である。

1) 1社3波体制の確立

 フジはメディア・コンプレックスを実現するために、CS放送、BS放送、地上放送を保有し、1社3波体制を実現している。民放で1社3波体制を実施しているのはフジだけである。日枝社長は
「メディアを押さえなかったら、コンテンツをいくら作ってもダメ。蛇口を押さえないと番組を作っても流せない」(週刊東洋経済 2000年4.29−5.6号)
と狙いを語っている。
 CS放送では、フジは、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(以下パーフェクトTV)の筆頭株主であり、経営陣を送り込んでいる。パーフェクトTVは、多チャンネル放送を行い、個人契約者数は183万人である。2000年3月に競合企業であったディレクTVを統合した。現在、国内のCS放送はスカイパーフェクトTVの1社だけである。
 BSデジタル放送に対しては、FNS系列各社が株式会社ビー・エス・フジ(以下BSフジ)を立ち上げ、フジは約20%の出資を行っている。BSフジは若い世代を狙ってサッカーのワールドカップ予選や「北の国から」「踊る大捜査線」など人気ドラマを放送する予定である。エンターテイメントを中心にハイビジョン放送で、さらに番組連動型のデータ放送も実施する予定である。
 地上デジタル放送に対しては、既にフジの新社屋で、デジタル放送の設備を完備している。また、フジは「バリアブル・ビット・レート(VBR)」(画像の動きのレベルに合わせて帯域幅を変動させる技術。例えば、ニュースなどの動きの少ない画像の伝送時には帯域を節約するなど)を独自開発し、この技術を活用して、コンテンツのダウンロードを実現する取り組みを行っている。デジタル放送に向けて準備を進めている。

2) インターネット分野への進出

 インターネットを中心に通信分野にも積極的に進出を行っている。日枝社長が
「私は社内に対し、放送も通信に打って出ようと言っている。打って出ないと勝てない」(週刊東洋経済 2000年4.29−5.6号)
と述べている。具体的には、みっつのことを行っている。
 ひとつは、インターネット事業への参入である。2000年6月に、会員数約5万人の中堅ネット接続サービス会社ピープル・ワールドの発行済み株式95%をIBMや三菱商事から取得し、傘下に収めた。インターネット技術やインフラを取り込み通信事業の基盤を確保し、しかもフジのホームページと連動させることで、ホームページの集客力の向上を可能にすることが買収の狙いである。
 ふたつめは、インターネットでのコンテンツの提供である。フジは、秋元康がプロデュースする連続ドラマ「女子アナ探偵」を20分間テレビで放送し、その直後からインターネットで2分前後続きの内容を流してしている。
 みっつめは、インターネットとイベントの連動である。フジは「お台場どっと混む」という名前でイベントを開催し、同時にイベント専用のサイトを開設した。そのサイトでは、イベントの情報だけでなく、ドラマを流し、ネットだけのイベントも開催している(図表4)。
図表4 フジテレビが考えるデジタル放送と通信の融合

(2) コンテンツの充実−他企業とのアライアンス

 フジは、他企業との提携を積極的に行っている。BSフジは2000年7月に大日本印刷と提携した。両社は総事業費10億円の共同プロジェクトを発足し、データ放送やインターネットや携帯電話向けのサービス展開も視野に入れた顧客データベースやデータ処理システムを構築する。なお、データ放送のコンテンツ作成についても協力する予定である。
 2000年4月24日新聞報道されたソニーのフジへの資本参加は発表以来何も進展していない。ソニーは文化放送のフジ株を購入することを検討していたが、7月に文化放送は国内の機関投資家にフジ株を売却し、計画は頓挫している。ソニーは6月、東急ケーブルテレビジョンとの戦略的提携を発表し、CATVへの進出を行っている。
 しかし、パーフェクトTVではフジとソニーは同率筆頭株主として経営に参画している。日枝社長は
「これからは放送業界に閉じこもるのではなく、アライアンスの時代。スカイパーフェクトTVを設立したときなぜ、ソニーと一緒になったかといえば、彼らは音楽や映画のビジネスを展開し、当社と似通っているから、互いに補完し合えるだろうと考えたからだ。そういう意味では、すでに手を組んでいるようなものだ」(「週刊東洋経済2000.4.29〜5.6」)
とソニーとの実質的な提携について述べている。フジがソニーと提携を行う理由は、「通信とデジタル放送の技術力の強化」と「コンテンツの充実」である。

(3) フジが構想するビジネスモデル

 フジは「融合」についてふたつの考え方を持っている。ひとつは、「双方向性」である。
「デジタルで下り線を、通信で上り回線を行うことである。」(JMRヒアリング)
とフジは述べている。
 ふたつめは、
「放送と通信の媒体を多数押さえ、それぞれが連動したコンテンツを提供すること」(JMRヒアリング)
いわるゆる「複合」を「融合」と考えている。テレビドラマの続きをインターネットで流すなど、放送と通信が連動したサービス提供を融合と考えている。
 「融合」での、勝ち抜くためのポイントをコンテンツの充実としている。
「勝負どころは何といっても流すコンテンツ自身であり、過去の番組の蓄積があるテレビ局はこの点有利だ。もちろん、自社だけでなく、ソニーのゲームや音楽、映画など他社のコンテンツも積極的に手掛けたい」(BSフジ編成部部長金光修氏 週刊東洋経済2000.4.29−5.6))
としている。コンテンツが充実していなければ、視聴者のアクセスは少なく、メディア・コンプレックス体制は画餅に帰してしまう。
図表5 フジテレビの売上構成(99年度)

図表6 フジテレビの経営実績
 フジは「融合」によって何を狙っているのだろうか。それは、ポータル化であり、それによる収益構造の転換であると考えられる。BSフジ編成部部長金光氏はポータル化することで、
「テレビ局はメーカーから広告費とは別に販促費などをいただくことが可能。(テレビでのオンラインショッピングで)注文までいけば売上からフィーを得ることも期待できる」(週刊東洋経済2000.4.29−5.6))
と将来の展望を語っている。現在のフジの売上構造は、スポット広告などの広告収入で85%を占める。通販やイベント収入など「他事業」による収入は8%に過ぎない(図表5)。フジの売上高はここ数年停滞している(図表6)。しかも、インターネットを活用した広告が増加し、テレビによる広告費は減少すると予測されている。
「ビジネスとして考えるなら世帯普及率が問題。1000万世帯以上にならないと広告以外の事業の収益が獲得できない。地上放送は4500万世帯であり、十分にビジネスになると考えている」(JMRヒアリングより)
とフジは捉えている。視聴者へアプローチする複数のチャネルを確保し、コンテンツを充実させ、ポータル化させることで仲介ビジネスを展開する構想を持っていると考えられる。

4.民放各社との競争と異業種からの参入

 「融合」によるビジネスチャンス獲得を巡って、民放各社は熾烈な競争を行っている。加えて、通信業界やメーカーも参入を始めている。

(1) 日本テレビとTBSの動向

図表7 民放売上上位3社の売上高推移
 民放の売上上位3社はフジ、日本テレビ、TBSである(図表7)。視聴率では日本テレビがフジを凌駕している。フジの最大の競争相手である日本テレビの氏家社長は
「当社を取り巻く環境の変化はふたつの側面がある。ひとつはインターネットの普及に伴うEコマースの発展。もうひとつは衛星放送など通信と放送の融合の問題だ。保有するコンテンツを生かせば、いろいろな事業展開が考えられる」(日本経済新聞 2000年3月7日)
と捉えている。なかでも
「経営にインパクトを与える点で課題なのは、BSよりも系列局の問題を含めて地上波のデジタル化だと認識している」「当面は地上波主体で従来通り系列グループを中心に経営戦略を進めていく考えだ」(日本経済新聞 2000年3月7日)
と言うように地上放送のデジタル化を基軸とした展開を考えている。具体的にはフジと同様に1社3波体制を構築し、多チャンネル化を目指している。
 フジが独占しているCS放送では、2000年5月19日に日本テレビはWOWOWと提携し、正式に参入を表明した。新会社を設立し、2000年8月に打ち上げ予定の次期東経110度CS衛星(BS衛星と同じ東経110度に打ち上げ、1台のアンテナでBSとCSの両方が視聴できるのが特徴)を活用して、サービスを開始する予定である。新会社には、マイクロソフトや松下電器の参画が予定されている。
 BSデジタル放送については、東芝、徳間書店、松下電器産業などと50社と共同出資して株式会社ビーエス日本(以下BS日本)を1998年12月2日に創立させている。資本金は2000年1月現在100億円、従業員数は29名(2000年4月24日現在)である。BS日本では、ニュースや箱根駅伝など日本テレビが関わるスポーツ中継やドキュメンタリーなどのエンターテイメントを放送する予定である。
 1社3波体制を構築する一方で、通信への進出も行っている。日本テレビは、2000年3月1日に日本テレビグループのインターネット等を利用したコンテンツ事業およびEC等のサービス事業を展開する株式会社フォアキャスト・コミュニケーションズを設立した。日本テレビが70%、トランス・コスモス株式会社が20%、読売新聞社が10%の出資を行っている。
 事業内容はみっつである。ひとつは、巨人戦速報や人気テレビ番組などの日本テレ公式サイトの運営。ふたつめは、携帯電話専用の公式サイト「i日テレ」の開設などモバイル向け情報発信。みっつめは、課金決済を含む電子商取引への参入である。新会社設立の狙いは、「融合」に向け、独立会社組織による通信部門の強化や電子商取引の本格展開、テレビ番組とインターネットの連携である。
 日本テレビでは、フジよりも1社3波体制、通信への参入は遅れているが、高視聴率を武器に、ポータル化とそれによる収益構造の転換を図っていると考えられる。
 TBSは日本テレビと同様に民放では早くからBSデジタル放送に参入している。1998年12月に株式会社ビーエス・アイ(以下BS−i)を設立した。TBSの他に松下電器やNEC、電通が出資し、双方向サービスに注力している。
 双方向サービスを実現するために、他社に先駆けて、TBSは1999年12月に株式会社トマデジを設立した。TBSが20%、松下電器17%、NTTグループ15%を出資している。トマデジは、データ放送を含むBSデジタル放送を中心に地上放送やインターネットなどの媒体にデジタル・コンテンツ及び電子商取引などのデジタル・サービスの企画、制作、開発や顧客管理を行う。設立6年目の2005年には50億円の売上を目標としている。データ放送を実現できる企業はトマデジだけと言われている。TBSでは双方向サービスの強化を先行して実現することで、新たなポジションを確立しようとしている。

(2) NTTの放送への参入

 通信業界から放送分野への参入も見られる。NTTグループは年末のBSデジタル放送の開始に対応して、トマデジへの資本参加だけでなく、データ放送を行う株式会社日本メディアークを設立した。時事通信社が30%、ドリームネット20%、共同通信社20%、NTTドコモ7%、NTTデータ3%が出資している。ドリームネットはNTTデータが60%、NTTドコモが40%出資したインターネットの接続サービスを行う会社である。NTTグループが実質30%出資している。
 ドリームネットが出資している理由は、NTT持ち株会社や東西地域会社は放送業界に参入が事実上禁じられているからである。日本メディアークの参入許可により、事実上郵政省がNTTの放送への参入を認めたことになる。日本メディアークでは、時事通信や共同通信のニュースや金融情報など専門性の高い情報を流す予定である。

(3) メーカーの放送への参入

 松下電器やソニーなどメーカーは、アライアンスによって放送業界への参入を果たしている。
 松下はBSデジタル放送でBS日本(10%)とBS−i(8%)に出資、CS放送では、パーフェクTV(3.8%)出資し、日本テレビが開始するCS放送にも出資する。コンテンツサービス分野ではTBSやNTTと組んでトマデジを運営している。さらに視聴情報管理や課金システムの構築ではパナソニックデジタルネットワークサービスを設立。デジタルTVの開発では90年代の半ばからグループで3000人の開発者を投入し、デジタル放送分野の垂直統合を目指している。通信分野ではHI−HOを保有し、通信への参入を既に果たしている。通信と放送の両面に参入し、「融合」での主導権を握ろうとしている。
 一方、ソニーはCS放送ではパーフェクTVの筆頭株主であるが、BSデジタル放送では、BSフジやテレビ朝日系列(BS朝日)に5%未満の出資を行っている程度である。BSデジタル・データ放送への参入をソニーは郵政省1999年9月に参入申請したが、1999年12月事業認可に落選した。比較審査のポイントのひとつである「放送法の外資規制」と「対象視聴者層」が影響した。「放送法の外資規制」とは、放送法第52条の13で外国企業が2割以上出資した企業・団体には免許を与えないというものである。ソニーの外国人持ち株比率は45%に達していた。「対象視聴者層」では、基本的に対象視聴者層が広くなければならないが、ソニーは提供サービスが若者向けに偏り過ぎていた。BSデジタル放送の分野では、松下電器と比べ出遅れている。
 BS放送での出遅れなどによって、デジタル放送を基軸にブロードバンド(高速な通信回線の普及によって実現される次世代のコンピュータネットワークと、その上で提供される大容量のデータを活用した新たなサービス)戦略を展開しようとしたソニーは、CATVへとその矛先を変更している。東急電鉄傘下の東急ケーブルテレビジョンとの提携はそのことを物語っている。
 デジタル放送で主導権を握ろうとする松下とCATVに矛先を転換したソニーと2社の方向は大きく分かれている。

5.フジが「融合」の時代で主導権を握るには

 「融合」の主導権を巡る争いは、提供サービスの具体性に欠けるものの、今後ますます激化していくと思われる。こうした中でフジは主導権を獲得できるのだろうか。

(1) フジの強みと弱み

図表8 放送・通信の主導権を巡るアライアンス
 フジの強みは、メディア・コンプレックス戦略に見られるようにコンテンツを提供するチャネルの多様さと組み合わせである。現在、唯一1社3波体制を構築することができ、通信分野への参入も既に行っている。そして、放送と通信の両方を組み合わせた展開も行っている。こうした展開ができるのは唯一フジだけである。日本テレビも同様の展開を目指しているものの、先行しているフジの後塵を拝している。
 一方、いくつかの弱みも抱えている。ひとつは強力なコンテンツが充実していないことである。トータルの視聴率で日本テレビに劣り、巨人戦というキラーコンテンツ(圧倒的な魅力を持つ番組や情報のこと)をフジは持っていない。
 ふたつめは、双方向サービスの遅れである。フジは双方向サービスの開発を7月に本格的に始めたばかりである。TBSでは松下電器やNTTと組み、トマデジを設立し、既に具体的なサービスイメージを発表している。日本テレビも3月に開発を始めている。この分野でフジは他社に先行を許している。
 最後は、アライアンスである。日本テレビは松下電器やWOWOWなどと、TBSも松下電器、NTT、NECなどと提携を行っている。フジはソニーとCSで提携し、コンテンツ充実を図ろうとしているが、ソニーのCATVへの参入などによってフジが望むような提携関係になっていないのが現状である。日本テレビ・TBS・松下・NTTの連合に対して、現状、フジは孤立した戦いを強いられている(図表8)。

(2) フジの課題

 現在、先行しているフジではあるが、テレビでのポータル化、収益構造の転換は現状のままでは困難になりつつある。フジにはふたつの課題が考えられる。
 ひとつは、競合他社に先行して独自の「融合」を展開するフジであるが、ソニーの方向転換とTBSの双方向サービスの強化、日本テレビの1社3波体制の構築によって、その先行性が失われつつある。先行性を維持することである。
 ふたつめは、松下電器など強力な提携関係を持つ日本テレビやTBSはフジにとって脅威となっている。日本テレビやTBSに対抗できる体制を構築することである。
 ふたつの課題のポイントは日枝社長が言うアライアンスを形成である。日本テレビ連合、TBS連合と対抗できる体制を整え、フジを中心に放送と通信のインフラ、コンテンツ、双方向サービス、顧客管理、デジタル機器提供という垂直統合を図っていくことがフジの勝ち残る方向であると思われる。

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