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■第5章:血を絞り出す(1)(9/1)
ナースセンターの一角にテーブルと椅子が並べられていて、すでに何人かの患者が血糖測定をしている。ここは内科病棟なので、患者たちの入院理由はまちまちだ。肝臓病の人もいれば、腎臓病の人もいる。しかし血糖測定が必要なのは糖尿病なので、今ここにいるのは同病の人たちということになる。
「九十六です」
「はい、桑原誠さん、九十六」
患者が読み上げた血糖値を、看護師が復唱して帳簿につける。テーブルの上には、何やら恐ろしげな針のようなものをたくさん入れた箱が並べてある。僕はちょっと気後れしながら、言われるまま丸椅子に腰かけて指示を待った。
「これから血糖値を測って、インスリンを打っていただきます。この作業は今後一日三回、食事の三十分ほど前に毎回、ご自分でやっていただくことになりますので、やり方をよく覚えてくださいね」
インスリンにもいろいろ種類があり、一日に打つ回数も処方によって異なるのだが、僕の場合は毎食前に各一回ずつ打つ即効性タイプのインスリンが処方されている。そしてそれを打つ前に、必ず血糖値を測らなければならない。食前血糖値がいくつであるかによって、注射するインスリンの量も変わってくるからだ。
血糖測定は、手のひらサイズの小さな測定器を使って行なう。これは、最初に立花医師の診察を受けたときすでに経験済みだった。ただそのときは、立花医師が僕の手を取ってやってくれたので、なんとなく、その後も医師か看護師がやってくれるものと思い込んでいたのだが、そうではなく、自分でやらなければならないのだ。
血糖を測るためには、まず血を出さなければならない。たとえば、肌に当てるだけで正確な値を測定できるような器具があればいいと思う。もしそういう技術を開発できれば「医療界のビル・ゲイツになれますよ」と立花医師も力説している。しかし現実には、今のところそんな技術はない。だから、実際にその都度、血そのものを出す必要があるのだ。
手順としては、まず「穿孔器」といわれるペン状の器具に、使い捨ての針をセットする。その一方で、測定器にやはり使い捨ての電極チップを差し込む。この測定器は、電極を挿入することによって電源がオンになる仕組みだが、そのまま放置しておくとやがて自動的に電源が落ちてしまうので、この後の工程はできるだけすみやかに行なう必要がある。
穿孔機の先を指先に当ててボタンを押すと、中からバネ仕掛けの針が一瞬だけ飛び出して、皮膚に小さな穴を穿つ。これがけっこう痛い。穴が開いたら、その周囲を軽く押して、血を絞り出す。米粒大になるくらいまで出さないと、正確な測定ができない。その血の粒に測定器の先の電極を当てると、毛細管現象によって血が中に吸い上げられてゆく。そのまま三十秒待つと、測定器のディスプレイに数字が表示される。それが、その時点での血糖値だ。
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