平山瑞穂
シュガーな俺



第15章:発覚(1)

 あきらかに自身の不摂生が原因の内臓疾患を「環境のせい」と言い切る海野さん。栄養指導で公然とズルをして、ハナから何も覚える気がない城所さん。彼らと僕は違う、と思っていた。彼らが陥る無限ループから、僕だけはいち早く離脱できるのだと決めてかかっていた。でも本当は、彼らと僕の間に本質的な違いなどないのではないか。そうでなければ、どうして僕はこんなに具合が悪いのか。そしてそれにもかかわらず、どうして午前二時台にこんな店で名前も知らないウイスキーの水割りのグラスを次から次へと空けているのか。

 その後どれくらいの間、店にいたのか、さだかな記憶はない。僕は不自然なまでの躁状態で、たぶん途中で何度も入れ替わったのであろう隣の女の子になにごとかを語りつづけていた。もう何度目かもわからない「延長」を勧められ、ふとわれに返って会計を締めたとき、海野さんはソファの上で背中を丸めて眠り込んでいた。六万円強の料金をカードで支払った後、今の海野さんから半額を回収することが可能なのだろうか、と一瞬考えた。しかしすぐに、それさえどうでもよくなってしまった。

 「眠い……帰るわ」

 あくび混じりにそのひとことだけを残して、海野さんは夜の路地に消えていった。考えてみたら、彼がどこに住んでいるのかさえ、僕は知らなかった。今度こそ、二度と会うことはないだろう。二度と会いたくもない。二度と会わずに済むのなら、三万円程度の手切れ金など安いものだ。

 タクシーでも拾おうと歩道を歩く途中で、屋台のラーメン屋を見つけた。途端に、空腹を意識した。僕は何も考えずに青いビニールシートをめくって止まり木に腰を落とし、ラーメンを注文した。ほどなく目の前に差し出された、なるとや海苔がのった古典的なラーメンを、僕は無心に啜(すす)りつづけた。炭水化物と脂の塊を、僕の胃は驚くほどスムーズに受け入れた。  
 次にはっきりと意識が戻ったとき、僕はマンションのリビングにいた。どうやって帰宅したものか、スーツ姿のまま、メガネをサングラスみたいに額の上にずり上げた状態で、テーブルに突っ伏していた。カーテンの向こうはもう明るくなりかけていて、テーブルの上に置かれた「疲れているので先に寝ます」という奈津の書き置きが読める。頭が割れるように痛く、枕替わりに頭を載せていた右腕が、指の先まで痺れている。

 足をもつれさせながらどうにかパジャマに着替え、ぐっすり寝入っている奈津の隣のベッドに潜り込んだ。すぐには眠れず、右腕の痺れはなかなか取れなかった。翌日の昼ごろ目覚めても、痺れは取れていなかった。それから二日が過ぎても、指先がビリビリしたままだった。

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