
さて、ストレスで血糖が高まるというお話をしましたが、ひとくちにストレスと言っても、怒りやイライラだけではありません。体の調子が悪かったり、疲れているのに無理をしたりしても、それが肉体的なストレスとなって、血糖コントロールに驚くほど悪い影響を及ぼすことがあります。
よく言われるのは、風邪をひいたりして熱が出ると、一気に血糖が高まるということです。知識としては前から知っていたのですが、僕自身、それほど劇的な形では経験したことがありませんでした。ところが去年の4月ごろ、長いこと熱が下がらず、寝込んでしまったとき、僕はその恐ろしさを目の当たりにすることになりました。
まさに、この『シュガーな俺』の第一稿を書いていた頃のことです。書きはじめてみると非常に調子がよく、どんどん続きが書けます。その絶好調のノリを失いたくなかったので、僕は勢い込んで、連日だいたい午前3時くらいまで、ものすごいペースで原稿を書きつづけました。しかし僕は、サラリーマンと作家の兼業です。翌日は9時までに会社に行き、8時間ほどは働かなければなりません。それが毎日というのは、後から思えば、どう考えても無理がかかりすぎていました。
そんなさなか、僕は風邪を引いて熱を出しました。
普段でも、ときどき風邪を引いて会社を休んでしまうことはあるのですが、休暇を取るのはせいぜい1日で、翌日にはケロリとして出勤することができます。ところがそのときは、病院に行って薬をもらう以外にはおとなしく寝ているのに、一向に熱が下がりませんでした。夕方くらいになってようやく平熱に近づき、この分なら明日は行けるだろう、と思っていても、明け方になるとまたぶり返して、9度くらいまで上がってしまうのです。
医師に相談しても、ただの風邪だとのことで、毎回、同じ薬が処方されるだけです。その薬が効いているという実感はほとんどないのですが、ほかに手もないので、とにかくそれを飲みつづけました。すると、1週間ほどしてようやく熱が下がってきて、出勤できる程度になりました。
その後はなんともないので、やはりただの風邪だったのだろうとは思うのですが、「ただの風邪」にそこまでやられてしまったのは、たぶん、もともと基礎体力が乏しいところへ持ってきて、日ごろの無理が祟り、免疫力だとか自己治癒力のようなものが、完全に枯渇してしまっていたからなのではないかと思うのです。対症療法的と言われる西洋医学の薬剤だって、患者本人の自己治癒力がある程度以上存在することを前提に開発されているものなのでしょう。
問題は、その間の血糖値です。いつもどおりにインスリンを打っているのに、効いている形跡がまったくありません。熱があるので食欲もなく、食べる量はむしろ普段の半分かそれよりも少ないくらいなのに、血糖値を測ると、食前でも食後でもほとんど常に300前後という、恐ろしい高血糖状態。それが連日です。これが永遠に続いたとしたらどうすればいいのか、と正直、ビビりました。
熱が下がってからは、それまでどおり、インスリンもちゃんと効果を示すようになったのですが、この一件でかなり懲りたのは事実です。2足のワラジ生活では、なにがしかの無理がかかるのはやむをえないとしても、やはり、最小限の休息は取るように心がけないと、えらいことになってしまいます。風邪を引くたびに1週間も会社を休んだり、自分の肉体を異常な高血糖のままなすすべもなく放置したりするわけにはいかないからです。
しかしそのおかげで、こうして『シュガーな俺』をお目にかけることができたのだとも言えるわけで、痛しかゆしといったところでしょうか。死んでは花実も咲かないので、ほどほどにしておくつもりではいますが、「もっと書きたいのに体力と時間が足りない」というのは、いつも僕を悩ませる大きな問題でありつづけるのでしょう。
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