平山瑞穂
シュガーな俺



第10章:退院(2)

 その晩は、マンションの近所にあるシーフードのレストランで、ささやかな快気祝いの席を奈津が設けてくれた。食事内容については、だいたいの見当をつけて、指示カロリーを大きく超えないように調整したが、ひとつだけ、特典があった。アルコールだ。

 飲んでいいかと正面から訊けば、病院側の人物なら、いいとは言わないだろう。彼らがどう答えるかは、だいたい想像がつく。

 「まあ、社会人としてつきあいなどもあるでしょうから、絶対飲むな、とは言いません。ただ、極力、飲む機会はつくらないように、飲むとしてもたしなむ程度にしてください」

 おおかたそんなところだろう。だから僕は、立花医師にはあえて訊かなかった。そのかわり、奈津と相談して、「ときどき、少量飲む」程度ならかまわないんじゃないか、という結論に至っていた。どっちみち月に一度は血を抜かれて、ヘモグロビンA1cが判明してしまうのだ。飲んでいたとしても、その数値が改善されていくなら、問題がないということだ。

 まずは様子見、という思いも込めて、僕は一ヶ月ぶりのアルコールを口にした。白ワインをデカンタで頼んで、二杯弱。これでだいたい一単位、「ちょっと食べ過ぎた」程度の熱量だ。もう一生飲めないかもしれないと思っていたアルコールの味は、甘美だった。

 でも僕の心は、ほろ酔いの中でも新たな決意に沸き立っていた。入院は終わったが、本当の闘いが始まるのはこれからなのだ。これからは、奈津と二人、すべてを自分たちでやっていかなければならないのだ。

 そして僕はまだ、運命が自分をどこへ導いていこうとしているのかを知らなかった。

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