平山瑞穂
シュガーな俺



シュガー通信:第3号

 そろそろ正月気分も抜け、日常生活も食生活も平常モードに戻していかなければならない頃合いですね。

 さて、僕は1型糖尿患者なので、毎食前のインスリン注射(即効型なので、30分前)は欠かせません。しかも、サラリーマンでもあるので、家の外で打つ機会も多くなります。さいわい外回りのない内勤なので、昼食前に関しては、昼休みの30分前にそっと席を立ってトイレに行けば済みますが、営業職で日中はあちこち行ったり来たりしているような人は、インスリンを打つ場所やタイミングに関して、ずいぶん苦労されているのではないでしょうか。

 僕も、夕食まで外食になるときは、けっこう難儀します。私的な交友、あるいは作家としての打ち合わせなどのために、会社での仕事が終わってからあちこちの街に移動するわけですが、その間のいずれかのタイミングで、インスリンを打っておかなければなりません。

 注射を打つには最低、人目につかない個室が必要です。別にやましいことは何もなくても、目の前でだれかが突然注射を打ちはじめたら、ほとんどの人がぎょっとするでしょうから。また、「注射」と見れば無条件に、あらぬ疑いをかける人もいるでしょう。

 手っ取り早いのは公衆便所ですが、悩ましいのは、個室が埋まっていることが多いという点です。

 僕は前々からずっと疑問に思っているのですが、男子トイレの個室というのは、なぜどこもかしこもたいていは埋まっているのでしょうか。そしてなぜ、待っていてもなかなか空かないのでしょうか。誰がどこで用を足そうがその人の勝手なのですが、先を急いでいるときなど、「僕はただ注射を打ちたいだけなのに。ほんの数十秒、この個室を明け渡してくれるだけでいいのに」と思いながら、ついイライラして、「早くしろ!」とドアを蹴飛ばしたくなってしまいます。

 待ち切れなくなっても、近場に別のトイレがあるとはかぎりません。また、急いで別のトイレに駆けつけたところで、そっちの個室もやはり、埋まっていたりします。本当にどうしようもないときは、見知らぬ雑居ビルの小さなエレベーターホールの片隅や、なるべく人通りが少なそうな路地裏に紛れ込んで打つこともあります。まさに打っている最中にそばを人が通りかかって、慌てて体の向きを変えてわざとらしく腕時計を見てしまったりしたこともあります。

 仮に目撃されてしまったとしても、相手はゆきずりの人なのだし、そんなに気にしなければいいのですが、つい、「見られちゃまずい!」と意識してしまうわけです。

 会社で昼休み前に個室に入って打つときも、まさに針を下腹部の皮下脂肪に挿入したその瞬間、だれかがトイレに入ってきて「小」の方をしようとしたりすると、注入をためらってしまうことがあります。というのも、親指で先端を押して注入する際、インスリンを1単位(1ml)ずつ送り出す仕組みになっている注射器が、「キリキリキリ……」とかすかな音を立てるからです。

「なんだ、この音? こいつ、個室の中でいったい何をやってるんだろう?」と、ドアの外にいるそのだれかが不審に思いやしないか、などといちいち気を揉んでしまうのです。

 意識しすぎでしょうか。

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