月経のしくみ

巧妙なホルモン分泌の変化が月経を起こします

男女の違いを端的に述べよといわれたら、産婦人科医の私としては
「月経がある(あった)か、ない(なかった)か」とでも申しましょうか。
生まれたての男の子と女の子は、性器の形状こそ違いますが、睾丸はまだ精子を形成せず、
卵巣では排卵は起こりません。その意味で、男女ともに中性的な存在です。
それが思春期になるにつれ、男の子はより男性的に、女の子はより女性的になってきます。
「男女7歳にして席を同じうせず」という言葉がありますが、
まさにそのころから卵巣は次第に発育しはじめて、12〜13歳のころ、初めての月経(初経)を迎えます。
いわば女性の象徴たる「月経」について、ここでお話を進めることにしましょう。

月経とは古くなった子宮内膜が
はがれ落ちる現象です

 子宮の内側を内ばりしている内膜がはがれて、子宮頸管から膣を通って体外へ流れ出てくる現象――これが月経です。
 子宮内膜は、卵が精子とドッキングして受精に成功した場合、それが子宮の中で着地(着床)して大きくなるための、いわばベッドのようなものです。受精卵がやってこない、つまり妊娠が成立しなければ、次の機会に備えるために月経が起こり、ベッドメーキングがし直されるわけです。
 月経は「月」の名のとおり、ふつう約4週間おきに繰り返されます。英語ではメンストレーション、略してメンスとよばれていますが、その語源もラテン語の「月」という言葉にあります。

月経が繰り返されるしくみを
お話ししましょう

 月経でほとんど洗い流された子宮の内側には、内膜のもととなる1枚の薄い細胞の膜が残されていますが、この膜に卵巣から分泌されるホルモン、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が作用して、内膜を肥厚させ、やわらかく変化させます。
 卵巣の中には、卵を包んだたくさんの卵胞が眠っています。月経と月経の中間、正確には次の月経の約2週間前に、ひとつの大きくなった卵胞の皮が破れて、中から卵が飛び出してきます。これが排卵です。
 顕微鏡でしかみえないような小さな原始卵胞を、大豆大の成熟卵胞にまで発育させるのは、下垂体という、脳内にあるクルミ大のホルモン産生センターから分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の働きによります。
 発育過程の卵胞は、卵胞ホルモン(エストロゲン)を分泌します。卵胞が成熟し、エストロゲンの濃度が高まってくると、子宮内膜は厚みを増していきます(子宮内膜の増殖期)。同時に脳の視床下部に情報が伝わり、視床下部が下垂体に指令を出すと、下垂体から今度は黄体化ホルモン(LH)が分泌されるようになります。LHが作用すると、卵胞は破裂して排卵が起こります。下垂体から分泌されるFSH、LHをあわせて性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)といい、その分泌をコントロールする視床下部からのホルモンを、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gn―RH)といいます。
 卵が飛び出たあとの抜けがら卵胞は、黄色い脂肪が充満した「黄体」とよばれるものに変化します。ここからは黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌され、先に卵胞ホルモンによって増殖された子宮内膜の性状を、受精卵が着床しやすいベッドのような状態に変化、維持させます(子宮内膜の分泌期)。
 生きものにはすべて寿命があるように、排卵後にできた黄体にも一定の寿命があります。黄体の寿命は、だいたい14日間程度です。ですから妊娠が成立しないかぎり、黄体は約14日で退縮し、黄体ホルモンも消失します。黄体ホルモンによって維持されていた子宮内膜も、その月は、ご破算に願いましては――ということになります。
 月経が始まり、卵胞ホルモンと黄体ホルモンが少なくなると、視床下部は下垂体へ信号を送り、下垂体はゴナドトロピン(とくにFSH)を放出して、また別の卵胞が発育を始めます。
 このようにして月経は周期的に繰り返されるのです。

【ホルモン分泌と月経のしくみ】

月経は妊娠していないことの
証明でもあります

 周期的といえば、渡り鳥が季節によってシベリアと日本との間を旅するのも、春と秋とにきまって、近所のネコがニャーニャーと発情してデートに熱中するのも周期的ですね。これらのリズムがコントロールされているのは、脳の中に体内時計とか生物時計とかよばれている暦が組み込まれており、視覚から受ける日照時間の長さや、季節の変化に反応して、排卵周期をつくりあげているからにほかなりません。人間の場合は、長い進化の過程で、きっちりとした排卵スケジュールが、ほぼ28日型の暦で脳の時計に刻みつけられているのです。
 イヌやネコの雌が排卵するのは春と秋だけですし、1年に1回だけという動物もいます。なかでも合理的なのはウサギです。ふだんは自分から自然に排卵することはないのですが、雄からの性交刺激を受けると、そのときだけ排卵が起こるのです。人間は、恋人や夫がいなくても毎月自動的に排卵が起こるのですから、考えてみればむだなことかもしれません。
 少し長い説明になりましたが、月経は、排卵された卵が受精あるいは着床せず、流れ去ったことの証明でもあるわけです。

女性の体温は
微妙に変化します

 ところで、基礎体温という言葉をお聞きになったことがあると思います。毎朝、目が覚めたとき、起きあがる前に床の中で婦人体温計で体温を測定してみます。これがその日の基礎体温です。毎日の基礎体温を表に記入し、折れ線グラフで結んでみますと、排卵が起こっているかどうか、またその時期、さらには妊娠したかどうかを判定することができます。
 排卵したあとは、黄体ホルモンの働きで基礎体温がそれまでより0.5℃程度高くなります。排卵前の体温が低い期間を「低温相」、排卵後の高い期間を「高温相」といいます。低温相は卵が成熟する時期である卵胞期、排卵後の高温相が続く時期は黄体期です。排卵がないと黄体ができず、黄体ホルモンが分泌されないので、高温相にはなりません(基礎体温表のパターンはこちらを参照)。
 基礎体温表からは、さまざまな情報が読みとれますので、自分の体のリズムを正確につかんでおくために、つけてみるとよいでしょう。
 測定する時間は、3時間以上横たわったあとであれば、決まった時間でなくてもかまいません。

※基礎体温の測定には、ふつうの体温計よりも目盛りのこまかい「婦人体温計」を使います。十分な安静のあと、体を動かす前に体温計を舌の裏側にはさんで測定します。


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