第十五のアルカナ『節制』

さて、今回はアルカナ「節制」の番ですね。
死と再生の札を経て、再生の後の人や物体の「変容・変成」というテーマがこのアルカナの象徴するところでしょうか。

「節制」では、女性が陶器製と見られる水差しを2つ、それぞれ両手に持ち、一方の水差しからもう一方へと中の液体を注いでいる様子が描かれています。
超有名どころのウェイト版を見てみましょうか。

ウェイト版「節制」
ウェイト版「節制」

さてさて、最古と呼ばれるヴィスコンティ版の「節制」はこれまた興味深い仕掛けがしてあります。赤いブラウスの上に、フレアが入った青いドレスを重ねて着ています。ドレスには、八つの線を交差させた星形の刺繍が施されています。

これと同一のドレスを身にまとっているのが「星」に描かれている女性、「月」に描かれている女性で、青いブラウスの上に赤いドレスを着て描かれているのがあたかも三姉妹、三人でひとつ組みであるかのようにも見えます。

「節制」の女性は、オールバックにした長い金髪、腰の高い位置で結んだ飾り紐が当世風のいでたちである様子。赤いストッキングを履いており、幾分たるんでいるように見えます。その足もとの向こう側には、青々とした芝生も見られますが、彼女自身がたたずんでいるのは岸壁、崖のようで荒っぽい印象もあります。

ヴィスコンティ版は、このような自然が背景になっている札と、王座や宮廷内が背景になっているものとの2タイプに別れるのが特徴的です。このカードは、元々ヴィスコンティ・スフォルツァ版の作画家・ボニファシオ・ベンボ(Bonifacio Bembo)ではない画家、アントニオ・シコグナラ(Antonio Cicognara)によって描かれたものだと言う説が有力です。

  
ベルガモパックの「節制」「星」「月」の三美神

「三美神」は、ヨーロッパの画家たちに好んで取り上げられたテーマです。ギリシア・ローマ神話の「花」「喜び」「輝き」を司る三女が描かれているものもあれば、「美」「愛」「貞節」を擬人化し、寓意的に描いたものもあります。三人の女性たちは、手を取り絡め合いながらも、どこか突き放し合っているようにも見えます。

美しい乙女たちの姿に一瞬心を奪われますが、身体の線、筋肉の動き、視線、ポーズなどから、彼女たちが互いに相容れない要素を持ち合い、完全なる調和をなすことはできない事実と一種の葛藤を垣間見るに至るのです。

完全なる美徳を有した完全な人間というものは存在せず、互いに補い合うことができた時に、人として真の輝きを発することができるのだという儚く悲しい現実をどう美しく描くか、画家の腕の振るい所であったことでしょう。

ラファエロ「三美神」
ラファエロ「三美神」
ルーベンス「三美神」
ルーベンス「三美神」

エステンシ・タロットの「節制」にも同様に、2つの水瓶を手にした女性が描かれています。頭の高さほどに掲げた右手の水瓶から、腰元あたりで左手で持つ水瓶へと水を注ぎ入れているその女性は、角張った淵が突起のように見える大きなベレー帽をかぶっているのが特徴です。女性の帽子、ベレー帽かフラットタイプのキャップでしょうか。トップが平たく、開いた雨傘のように突起が出ているつばが風変わりで人目を引きます。

欧米の大学で入学式や卒業式の時に学生や教授が被る角帽にも似ています。角帽と言えば、学位のシンボル。登場したのは13世紀半ばで、当時は、レンガ職人がブロック積み作業のときに使うモルタルを載せておく台に由来して、モルタボード mortar board と呼ばれるようになりました。大学生の最初の学位が、教授免許としての「学士号」、その上に「修士(マスター=親方)」と「博士(ドクター=教授)」があるというのは、ギルド的な側面を受け継いでいる呼称なのかもしれません。

ギルド集団として名高いフリー・メイソンは、体力が必要な石工集団が起源であることから、女性の入会には門を閉ざすという伝統を守っています。エステンシ・タロットに描かれている「力」「正義」「節制」の三人の女性がこの角帽を被っている点に、作者の当世の社会制度、風潮への挑戦的な精神を見出せはしないでしょうか。

  
エステンシタロットの「力」「正義」「節制」

14〜16世紀のヨーロッパでは、角張った帽子が流行し、へナンと呼ばれる、いわゆる「とんがり帽子 Henin(fr)(en) 」から二本の角をかたどったようなかぶり物、針金などの枠で作った帽子の上にヴェールを掛けたもの(Escoffion)などが登場します。16世紀前半頃には、ヘッド・ドレスをつけるのを「英国風」、髪を結って宝石を飾るのを「フランス風」、髪を背に流し束ねる形を「イタリア風」と呼んでいたというのも興味深いお話です。

ここで、中世ヨーロッパ社会で尊ばれた人の四つの徳性が出つくしたところであるとも語られます。「隠者」「力」「正義」そして「節制」は、それぞれ賢慮(Prudence)、精神力、社会正義、節度という人間の基本たる四種の徳性を指し示しているのだという説をご存知の方も多いでしょう。この四枚に限らず、タロットの大アルカナ22枚それぞれに徳性が暗示されているものであると言うことができるのです。

この札が出た時には、「節制」即ち、節度と制限をもってして、あなたはまず自制をうながされます。自己の欲望を抑えて、度を超さないようにすることが大切です。「ホドホドに」ということばがありますね。まさにホドホドにしておく時なのです。腹八分目とか、節約とか、ないものねだりなんて禁物。あるもので済ませることを実行しましょう。

今手にしているもので、それはできると、「節制」は語っているのです。赤と青の絵の具を混ぜ合わせれば、紫の絵の具ができますね。持っているものを足して割ったり混ぜ合わせることで、代用品を作り出しましょうと、このアルカナは語っているのです。たくさんの意見をすべて押し通すことはできなくても、折衷案を導き出して。あなたの希望通りにはいかなくても、それに近い満足できる方法があるはずです。ちょっと機転を利かせて、やりくりしてみて下さいな。


アルカナ第15枚目のアルカナ
タイトル「節制」
英語Temperance
フランス語La Temperance
イタリア語La Temperanza
カードの象意 物事の質・形状を変えて、平和的に解決する。
協調・和を重んじる美徳
キーワード 調和・調節
和解
適応(能力)
自制心・節度を守る
自重する・控えめ
求めない心
守りの姿勢
献身的・けなげさ
包容力
安心感
反省

周囲が見えない
自分本位・気を使わない
抑えられない
望みすぎる
無防備
正直すぎる
乱れた生活

その他:
心優しく純粋な人柄
やり手
営業マン
教職、講師、インストラクター