南里征典 欲望カメラマン
目 次
第一章 大型新人女優の誕生
第二章 美人キャスターの魔性
第三章 美少女は名器
第四章 スチュワーデス夜間飛行
第五章 政界夫人の寝室
第六章 処女開封請負業
第七章 銀行OLの乱悦
第八章 混浴露天風呂の美女
第九章 美人教祖の欲情
第十章 タロット姉妹の禁悦
第十一章 人気女優の絶頂
第十二章 財宝伝説の女
終 章 勝利に乾杯
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第一章 大型新人女優の誕生
1
予知夢というものは、本当にあるらしい。
高千穂豪は、その女の顔をみた時、前夜、夢の中で出会った女であることを思いだし、この女性に決めよう、と即座に決心してしまった。
オーディションの席上である。
高千穂豪は、テレビ局の新人女優選抜の審査委員をしていた。
オーディションは、大手キー局「中央テレビ」の来春の超目玉新番組となる大河ドラマの主役と準主役の女優を決める審査である。
オーディションの会場は、熱気にあふれていた。
中央テレビのスタジオの一つが、会場にあてられている。審査員がずらっと並ぶ前に、レオタード姿のピチピチギャルや、女優志願のモデルや、大役にありつきたい新劇女優などが、次々に登場する。
控室には、順番を待つ子があふれていた。
第一次の応募者は、一万人をはるかに超えていた。写真貼付を義務づけた書類選考で、三千人ぐらいに絞り、この前やった第一回のオーディションで、百人に絞った。
いよいよ今日、二次三次と絞って、最後の二人を選ぶのである。
一人はヒロイン役。もう一人は準主役で、ともにこのオーディションに受かれば、シンデレラガールになるコースが間違いなく保証されていた。
それだけに、応募した女たちの熱気が、煌々と照らされたライトの中で、むんむんと渦巻いているのであった。
「14番、雲珠京子さん」
司会に呼ばれて、一人の大柄な娘が登場した。
一メートル七十センチ近い長身で、美貌、しなやかな身体をした娘であった。鮮やかな朱色のレオタードを着ていた。足がすっきりと長い。シルクがかった光沢のあるレオタードが、乳房や臀部のなやましい盛りあがり具合をあやしく浮きたたせ、グラマラスな肢体を、ぐーんと迫力のあるものにしていた。
高千穂豪が息をつめたのは、その顔をみた瞬間である。
ハッとしたくらいである。
(どこかで見た顔だぞ……)
という気がして、しきりに考えた瞬間、それが、ゆうべ夢の中に現われた女の顔であったことを、思いだしたのである。
まさか、と思ったが本当であった。
夢の中で、その娘はスチュワーデスの制服を着て、機内をサービスしてまわりながら、高千穂に熱いコーヒーを運んできてくれた時、
「熱いですから、お気をつけください」
と言い、ニコッと笑いかけたのである。
その笑いかけた時の、円らな瞳と、彫ったような美貌の顔は、はっきりと覚えている。
こういう偶然というものが、現実にあるのだろうか。
高千穂豪が不思議な気分に包まれているうちにも、呼ばれた子が照明のあてられた円形ステージの中央にあがり、くるっと一回転してポーズを決め、審査員席にむかって大きな声で、自己紹介を始めていた。
「雲珠京子でーす。二十二歳。丸の内の会社に勤めながら、青年俳優座で演劇の勉強をしていまーす!」
手許の資料には、職業欄に「女優」と書かれていたが、女優とはいってもまだ大舞台は踏んではいないので、その卵といっていい。だが長身で、グラマラスなスタイルと、存在感のある美貌ぶりは、将来、間違いなく大物女優になる素質をもっていそうである。
「趣味は?」
「好きな色は?」
「スポーツは?」
「目標とする女優は?」
――審査員が次々に、あたりさわりのない質問を浴びせているが、雲珠京子はそれに対して、実にてきぱきと答えているようであった。
しかし、高千穂豪は、応募者に質問するよりは、バスト、ウエスト、ヒップなど、その子の女体美の隅々を舐めるように、眼で点検していた。
視姦している、といってもいいくらいだ。
高千穂豪は、人気カメラマンである。
写真集も二十冊以上だし、女性週刊誌や一般月刊誌、写真誌などのグラビアの仕事は、引きもきらず、超売れっ子のカメラマンとして、多忙な日々を送っている。
彼は報道写真から山岳写真、ヌード写真まで何でもこなすが、このところ追いまくられているのは、主としてヘア・ヌード写真集であった。
彼は無類に、女性が好きである。女性美は追求して飽きないし、エロスの極致、究極の女性美を求めて、高千穂豪は長い遍歴をつづけている、といってよかった。
今日、オーディションの審査員に担ぎだされたことも、彼が人気カメラマンだからである。中央テレビの新番組「銀色の駱駝」は、シルクロードから日本の奈良、天平文化へとつながるシルクロードの美をテーマに、写真を撮りつづける青年カメラマンと、その恋人役の写真館の娘や、女性美術学者などが入り乱れての恋物語を中心としたロマン大作である。
そこで、主演と助演女優を決めるにあたって、本職のカメラマンの眼からみた女性美、という見地から審査をしてもらおうと、高千穂は担ぎだされたわけである。
審査員は、高千穂のほかに若手映画監督、女流作家、人気コピーライター、それにテレビ局から現場ディレクターと、大熊隆行芸能局長とが出て、構成されていた。
それらの審査員がひと通り、質問を終えたところを見はからい、高千穂は突然、席に身をのりだして、雲珠京子に質問を発した。
「あと一日しか生きられないとしたら、あなたは何をしますか?」
難しい質問であった。女の子ならたいてい、山のようなファッションに埋もれたいとか、おいしいものをたべたいとか、ハーゲン・ダッツのアイスクリームを腹いっぱいたべながら死にたいとか、大体、そういう他愛ないことを言うものである。
しかし雲珠京子は、すかさず答えた。
「はーい。二十四人の美青年に黒いタキシードを着せて、ずらっと一堂に並ばせたいでーす」
「二十四人の男性? それはどういう意味でしょうね」
「一日は二十四時間と決まっていまーす。一人一時間ずつ、私の部屋に呼び入れて、しっかり奉仕してもらいながら、死んでゆきたいでーす」
「つまり、セックスをする、というわけですか?」
「はーい、当然でーす。生命ぎりぎりで何をしたい、ときかれたら、人間、それしかないと思いまーす」
あまりにも明快な答えだったので、うーん、と審査員席が沈黙してしまった。
やがて、チーフディレクターの山崎信司が、
「おいおい、アダルトビデオのオーディションじゃないぜ」
と、苦笑まじりに、小声で仲間うちに言った。だが、それはどうやら、照れ隠しのようでもあった。
審査員一同が、雲珠京子のきらめくような双眸に、魅入られるようなセクシュアルなものを感じて一瞬、たじろいだくらいだ。
魔性を秘めた官能性、といっていい。
とくに高千穂豪などは、雲珠京子を眺めているだけで、先刻から股間の尊厳が意欲を示して、困っていたのである。
やがて、演技力をみる段になった。
パントマイムである。一人一人に、審査員が別々の課題を与え、一人五分間ずつ、ライトを浴びてパントマイムをやる。
貴婦人の役、ビル清掃婦人の役、仕事に失敗して上司に叱られて泣いている時のOLの役……など、審査員は次々に、課題を与えた。
その中で、高千穂はとっさに、
「女の一生をやってごらん」
という、難しい課題を投げた。
すると雲珠京子は、たちどころに、
「はーい」
と返事をし、考える間もなく、誕生したばかりの赤ん坊から、少女時代、恋を知った娘時代、結婚、出産、老婆になるまでの女の一生を、ものの見事に演じきったのである。
とくに挙式してハネムーンに旅立って初夜を迎えた場面にいたっては、高千穂は息苦しいほどの興奮を覚えた。
すごい迫真力なのだ。そこに男はいない。声もださない。無言のパントマイムなのに、女が身体をひらいて男を迎え入れ、のぼりつめるまでの湿った甘いあえぎ声や、つつましくもついに取り乱して発する淫らな叫びが、本物以上にリアルな生臭さをもって、耳に聴こえてきたのである。
「凄いね、じゃついでに、男の一生をやってごらん」
と、審査委員長の大熊隆行局長が悪のりして、もう一つ、課題を与えたほどであった。
「はーい」
これも即座に、雲珠京子はやってのけた。誕生から小学校に入り、大学を終えて就職し、結婚して社長になり、老人ホーム入りするまでの男の一生を、ものの見事にやってのけたのであった。
とくに、審査会場がシーンとなったのは、若者時代、性欲の発散に苦しんでオナニーをする場面であった。雲珠京子は女なのに実際に若者が手でペニスを興奮させて射精する状況を、実にリアルにやって精液を一メートルも飛ばす光景を目撃させ、さらには晩年、老人になって美少女に出会い、その少女の性器をひたすらクンニリングスすることで生命にむきあっている妄執の姿を、わずか数秒間のパントマイムの中で、実に鮮やかにやってのけたのであった。
「ふーん。凄いな」
「大型新人ですよ、これは。磨けば、将来、すごい大物女優になる」
――審査員たちは顔を寄せて、ひそひそと話しあった。
その時にはもう完全に、この子に決めよう、と高千穂は決心していたし、審査員一同が、ほぼそういう空気になっていた。
しかし、それから二時間後、もっとたくさんの応募者をテストして、厳正審査した結果、オーディションに受かったのは、雲珠京子ではなく、十八歳のピチピチギャルであった。
雲珠京子は次点となった。次点でも、この番組の中でスチュワーデス役で登用されるから、雲珠京子としたら、大成功である。
だが、高千穂豪としたら、大いに不満の残る審査結果となった。自分が強烈に推した子が、次点に落ちたからというわけではなく、その落ち方がどうにも、承服できかねたのである。
審査員だけ別室に退っての選考会の席上、だれかが、雲珠京子のことを、
「おかしなことだがね、ぼく、ゆうべあの子の顔を夢の中で見ましてね」
と、そう言った。すると一同、シーンとなり、
「ほう、あなたも、ですか」
「あなたもですか」
「ぼくも実は、そうなんです」
五人のうち、四人までが、ゆうべ雲珠京子の顔を夢にみた、と白状したのであった。それを正直に白状しなかったのは、高千穂豪だけである。
「――何だか、薄気味わるいですね、あの子。ぼくたち選考委員はみんな、あの子からマインド・コントロールでも受けたんじゃありませんかね」
まさか、それほどのことではないだろうが、あの迫真力のある演技といい、夢といい、何となく薄気味わるいということで、一位には無難なピチピチギャルの梶山美由紀と決まり、雲珠京子はこの際、補欠ぐらいの位置にとどめておこう、ということになったのであった。
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