砂戸増造 性の秘本★調教・凌辱編
目次
はじめに
『血ぬられた薔薇』(原題「イマージュ」)
ジャン・ド・ベルグ
『華麗なる屈伏』
ヘルガ・フォン・ライヒ
『悦虐の女囚』
ジャック・ウォーレン
『二匹の牝犬』
ジョアンナ・プライス
『嗜虐の狩人』
ハーバート・デル・トロ
『淫虐のバラード』
シモーヌ・クルーシェ
『美少女トレーナー』
カール・クライン
『ロシア淫殺魔』
作者不詳
『嗜虐の楽園』
ケネス・ハーディング
『黒い呪縛』
アラン・ド・グラナムール
あとがき
(C)Masuzou Sado
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はじめに
二〇〇二年初頭に刊行された、河出文庫〈性の秘本シリーズ〉の番外篇ともいうべき『性の秘本★猟奇・淫虐編』(海外淫虐小説紹介)が好評だったので、その第二弾をお届けすることとなった。
重厚濃密な長篇作品をじっくり楽しむのもいいが、今回は意識的にSMエッセンスをコンパクトに、効果的に表現した短篇小説を選んでみた。いずれも、かつてSM誌に掲載された拙訳である。
前回と同様のご愛読を頂ければ幸いである。
前回にも言及したことだが、性に関する表現と用語が規制されていた一九七〇年代の翻訳作品なので、現代の、よりエスカレートした読者の認識と嗜好に合わせるべく、多少、原本に近い表現への訂正を試みたことをお断わりしておきたい。
『血ぬられた薔薇』(原題「イマージュ」)
ジャン・ド・ベルグ
★ かのあまりにも有名なポーリーヌ・レアージュの『O嬢の物語』(一九五四年、パリのポーヴェール書店から刊行され、パリの前衛的な文学賞のひとつである「ドゥ・マーゴ」賞を受賞した)が欧米の読書界に鮮烈な衝撃を与えた二年後に刊行された『イマージュ』(一九五六年、パリの〈深夜叢書〉社刊)は、『O嬢の物語』に勝るとも劣らない好評を博した。『O嬢の物語』と同じサブジェクトを描きながら、よりフランスらしいエスプリと、デリケートな妖しい香気が匂うようなSM文学の秀作である。
『イマージュ』の序文で、ポーリーヌ・レアージュはこう言っている。
《ジャン・ド・ベルグとは誰なのかしら? この想像は、ひと晩中でもわたしをとても楽しませてくれるの》
(ちなみに、ポーリーヌ・レアージュという名前の女流作家はどこにも実在しない。『O嬢の物語』に序文を寄せた批評家ジャン・ポーランの匿名ではないかと言われたりしたが、いまでは、ドミニク・オーリという、ジャーナリスト、編集者、翻訳家であり、レジオンドヌールを授与されたフランスの女流作家であることがわかっている)
そして、この異形の愛の物語の、デリカシーに満ち溢れ、卑猥感を意識的に避けた美しい文章から、ジャン・ド・ベルグという男名前の作者は、フランス文壇の著名な作家の匿名か、あるいは、彼が夫人か愛人と共作したものではないか、とも言われている。
書評家たちも、これこそポーリーヌ・レアージュ自身の第二作だと噂しているそうな。
だが、作者がだれであるにせよ、いかにも女性らしい視点と、デリカシーと艶麗な味わいをもつ被虐と加虐の愛欲の物語は、世界中の読者を末長く陶酔させることだろう。
主要な登場人物は三人。作者のジャン・ド・ベルグ自身、ファッション写真家で冷たい美貌のレズ女クレール、そして、悦虐のヒロインとして、美少女とも成熟した女とも言える謎めいたファッション・モデルのアンヌ。
全篇を通じて人肌色のバラの小枝が、シンボリックな妖しいイメージを伝える絶妙な小道具として、文字どおり美しい女体に花を添える。
ジャンはあるパーティで、顔見知りのクレールと出会い、彼女の冷酷な視線というリモコンで操られているように見える、少女の清純さと熟れた女の魅力を併せ持つ美しいマドモアゼルを見かけ、ひと目で魅せられる。
翌日から、その娘アンヌとクレールとジャンの妖しげな交際が始まり、ジャンはアンヌの不思議な魅力に溺れながら、男の欲情を冷たく拒むクレールにも激しく唆られる。クレールは女しか愛せないレズビアンで、三十路のなかばの熟れ切った女体は処女だった。
クレールはアンヌをバラの庭園で、レストランで、ランジェリー・ブティックで、裸にして凌辱してみせ、家では尻、乳房、腿、女陰を鞭打っては、自虐の手淫を強制した。欲情に耐えかねたジャンはアンヌを犯そうとするが、アンヌはフェラチオと肛門姦しか許さない。
そして最後に、ある夜、クレールは自らの意志でジャンの住居を訪れ、アンヌと同じ衣裳で男の暴虐な欲情に身を任せ、屈従の愛を誓う。クレールはアンヌを辱しめ、苦痛を与えながら、自分を責め苛んでいたのだ、と想わせる結末が素晴らしい。
* * *
《間もなく、アンヌが部屋へ入ってきた。
私とクレールは、小型の坐り心地のいい肘掛椅子にかけ、先刻写真を乗せていた低いコーヒー・テーブルは隅に押しやってあった。
アンヌは、私たちのすぐ前に頭を垂れ、両手をキチンと腿の脇に当てて立っていた。彼女は、プリーツ・スカートにブラウスという装いで、靴は履かず、ストッキングだけのはだしだった。
アンヌを呼んだのは、モンマルトルの書房で会った折に、彼女が私にとった非礼な態度を闡明にするためというものだった。しかし、実際は、彼女を虐め、羞しめて楽しむためのもっともらしい口実にすぎなかった。
クレールは、例の情け容赦ない辛辣な訊問で、おどおどしている可愛いアンヌを追及した。
そしてほんの数分間で、一方的な裁判は終わり、私たちのチャーミングな生贄は、彼女の罪状を否応なしに認めさせられてしまった。
アンヌは、一言の抗弁も許されずに判決を言い渡された。
「ドレスをお脱ぎ!」
クレールは、冷酷な笑いを含む声で命令した。
愛らしい娘は自分の役割を充分に心得ているように、素直に女主人の前の床に跪くと、一枚ずつ着衣を脱ぎ始めるのだった。アンヌの脱衣の動作には、まるで何かの儀式のように正確なリズムと、犯し難い神聖さがあった。
暑い日だったので、アンヌは薄着だった。
まずウエストの脇のホックをはずし、スカートを頭の上に持ち上げて抜き取った。
その日も、アンヌはパンティを着けていなかった。
ガーター・ベルトは、淡いブルーのサテンで、レース飾りがあしらわれていた。
ブラウスの前ボタンをはずし、前を大きく開いたので、裸のもう充分に熟れた乳房があらわに覗いて見えた。
次にストッキングが、美しい脚から薄皮を剥がすように巻き下ろされ、片方ずつ膝を上げて取り去られた。
それからガーター・ベルトの腰バンドのホックをはずし、スカートやストッキングの上に置くと、最後の一枚になった薄絹のブラウスを脱ぎ、両手を高く差し上げて顔の上部を私たちの視線から覆い隠すようなポーズで、じっと動かなくなった。
床のカーペットに跪き、太腿を大きく広げて女らしい魅力のすべてを私たちの熱い注視の前に晒け出したポーズで、アンヌは次の命令を忠実な犬のように待っていた。
アンヌの白い裸身は、柔らかく、女らしさに満ち溢れていた。まだ少女っぽさを残すほっそりした肢体は、すでに充分な曲線と陰影の美しさを示してすばらしかった。
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