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シビアな見積もりだった。
オフィスの窓の外では、白々と夜が明けようとしている。
クライアントA社…長いことアプローチしていてなかなか契約が取れなかったが、金額さえ合えば、今度こそはかなりの確度で落札できると社内が意気込んでいた。S原は、その重要な見積もりを徹夜で作成していたのである。
「やれやれ…厳しい内容だけど、このくらいじゃなきゃ行けないだろう…。さて、少し仮眠するか」
誰もいないオフィスで独りごちながら、S原はその見積もりを上司にメールして、ディスプレイの電源を落とした。
翌朝。S原がオフィスに戻ると、T川部長から声が飛んだ。
「S原君! 見積もりどうなった?」
「えっ? さっきメールで送りましたが…?」
「なんだって? 届いてないぞ? 何時だ?」
「ええ?」 S原は驚いて部長のパソコンを肩越しに覗いてみたが、確かに送った時間に、そのメールは届いていなかった。
S原は慌てて自席に戻り、メールボックスを開けてみる。
「あ…しまった! 相手が違う…」
メールは確かに送ったが、よく見ると宛先は部長と名字が同じ別の協力企業のT川氏になっているではないか。しかも最悪なことに、その会社は今回、別のライバル企業と組んでA社の仕事をしていたはずだ。S原はまっ青になった。下手をすると、この内容がライバル企業に筒抜けになる。
「デリケートな情報なんだから気を付けろとあれほど言ったじゃないか!」と怒鳴り散らす部長を取りなしつつ、まずはT川氏に電話を入れる。それほど親しい間柄ではないが、知らない相手ではない。
事情を話すと、T川氏は軽く笑いながら言った。「いやぁ、なにかと思ったところですよ。わかりました、廃棄しておきます。いや私も経験ありますからわかりますよ、ははは」
電話はそれで済んだが、相手が言う通り廃棄したかはまったくわからない。送ってしまったメール…後の祭りである。
急いで見積もりの手直しをしながら、S原は胃のあたりがじんじんと痛んで来るのを感じていた。
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この事例は、実際にあった"メール誤送信"の事例をもとに脚色、再構成したものです。 |
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解説
ビジネスメール全盛の陰で増える誤送信
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ある統計によれば、ビジネスマンの半数がメールの誤送信を経験しているとのこと。また総務省によれば、2006年に行政機関・行政法人で発生した個人情報漏洩のうち、メールの誤送信によるものが1,100件以上(全体の2/3)に上っているそうです。同報のミスにより、他人のアドレスが添付されたメールが届くケースも時折見かけるところです。
ビジネスメールが当たり前になり、重要情報が行き交っている中で、ぜひ防ぎたいヒューマンエラーのひとつではないでしょうか。注意を怠らないのはもちろん、誤送信防止機能を備えたメールソフトも増えていますので、導入を考えてみるのもいいかも知れません。 |
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